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マイケル・チェーホフ
MICHAEL CHEKHOV TECHNIQUE:PRACTICE
マイケル・チェーホフ・テクニーク〔理論編〕

マイケル・チェーホフ・テクニーク

【INDEX】
1.Imagination and Incorporation of images 想像力とイメージの統合
2.Improvisations and Ensemble 即興とアンサンブル
3.The Atmosphere and Individual Feelings アトモスフィアと個人の感覚

1.IMAGINATION AND INCORPORATION OF IMAGES 想像力とイメージの統合

 寝る前に今日会った人や光景を思い出してみましょう。音や臭いや、そのときの気持ちも思い出せるかもしれません。そのように記憶から豊かなイメージを再現させることができます。もっと過去の事はどうでしょうか。いくらか記憶の断片になっていたり、ねじ曲がっていたりするでしょう。また、時には全く新しいイメージとなって現れることもあるでしょう。それらはCreative Imagination(創造的な想像力)なのです。
  想像力の世界では、自由に変化したり、時空を飛び越えたりすることができ、またその想像の世界に浸り、様々な感情を感じることも出来ます。受け身になって想像力の世界にいると、不意に現れる突然の訪問者がいるでしょう(人とは限りません)。その訪問者にあなたは笑わせられたり、いい気分にさせてくれたりします。これらはイマジネーションの大きな力で、創造的です。
  演出家や、俳優、また芸術に携わる人間はこの力によく精通しているべきです。しかし、Creative Imagesは、私たちの中で独立しており、変化します。だから、思い通りに働いてくれるとは思わないことです。完全に慣らすには、それらのイメージに問いかけたり、時には命令したりが必要になり、そうすることで私たちの内部に目に見える答えを出してくれるのです。
  例えば、スタニスラフスキーのいうように、与えられた環境のなかで役として「これはどういうことだ?」「この手紙は誰がくれたんだろう?」「自分が今出ていったらどうなるだろう?」などと問いかけをすると、様々な答えが出て来ます。チェーホフはこの問いかけのやりとりを非常に細かく行っていたように見えます。

  チェーホフの場合、心理的な変化だけでなく、身体的な変化についても言及しており、例えばラブレターを手に取り「この手紙は誰がくれたんだろう?」「もしかして昨日会ったあの美しい人?」などと想像した場合、途端に背が伸びたり、顔がにやけたり、赤くなったり、うきうきと歩いたり、身体面でも違いが明確に出てきます。

  そして、「演技」として考えたとき、「表現の仕方はやりすぎじゃなかっただろうか?」とか「もっと大人っぽく演じた方がいいのだろうか?」ということも考えるでしょう。そのときもイメージへの問いかけを使えばいいのです。あなたとあなたのイマジネーションのコラボレーションで、幾つかの演技パターンを想像し、最適なものを見つけていけばいいのです。あなたが満足するまで色々と変わっていくことでしょう。そしてまたあなたの感情がわき上がり、動いてみたい欲求があなたの中で燃え上がるでしょう。このような過程を通して、自分の役柄についてもより深く、また早く近づけるようになるでしょう。

  このようにチェーホフは、ただ理性的に分析するのではなく、想像力を用いて、自ずと欲求が沸き上がるようなアプローチをしていくべきだと考えました。そしてまた日常生活ではないので表面的な表現では足りず、イマジネーションという手段を使って、その役の内部の生活を見ることが大事だと考えたのです。そしてそれが自分の感情や感覚や意志や衝動とも繋がっているのです。

 あなたが自分自身から感情を絞り出す必要がないと気づけば、すぐにそれを高く評価し始めるでしょう。そしてまた、あなたのイメージの、内部の生活の、心理(psychology)を「見る(see)」ようになれば、すぐにそれらが楽に自然と自分から生じてくるでしょう。

 システマティックなトレーニングを通して、想像力は発達し、よりフレキシブルに、また機敏になります。イメージが次々に膨らんで現れてくるようになります。また形作ったり、消えたり、そのようなイメージの変化がスピーディーになります。そしてこれらの維持やコントロールには意思の力集中力も必要です。

 「なぜ、現代の、ナチュラルな芝居において、苦労してイマジネーションを使う必要があるのですか? それらのキャラクターはわかりやすく、容易に理解できます」と疑問を抱く人はいますか? チェーホフはこれに対して、こう述べています。「作家が与えてくれる作品は、彼の創造物であって、あなたのではない。ではあなたが作家の作品に対してどのように貢献すればよいのか。あなたに与えられた役は、あなたが役の深みの中から発見するべきだ。また、わかりやすくて容易に理解できる人間など一人もいない」と。
  本当の俳優は役の表面をなぞりはしないし、代わり映えしないマンネリを当てはめたりはしません。役を職業や性格などでラベル化するのは、俳優を制限させ縛り付ける罪ともいうべきものです。俳優にとっての自由とは?創造とは?オリジナリティーとは? 人形のように舞台で演じることなど無意味なことです。創造的な想像力なく、マンネリズムに陥っている俳優がいるのは残念なことです。

2.IMPROVISATIONS AND ENSEMBLE 即興とアンサンブル

 すべての本物の芸術家にとって、最も崇高で究極の目的は、自分自身を自由に、完璧に表現することかもしれません。われわれは、皆それぞれ自分の信念や世界観、理想、倫理的な態度をもっており、これらは深くその人の個性の根っことなっています。そしてそれらを自由に表現したいという願望があります。芸術家は、内なる信念を自分自身をツールとして表現します。そして、それらは例外なく、自由な即興(improvisation)から為し得るのです。

 俳優が単に台詞を喋り、演出家からの命令を実行するだけなら、他人の創造の奴隷となるだけで、即興的な働きはできません。どんな役も、即興の機会があり、俳優と演出家でコラボレートし、共に創り上げていくものなのです。
  これはもちろん、勝手に台詞を作ったり、演出家の仕事を奪うわけではありません。どのように(How)台詞を喋り、どのように演出家の指示を生かすかにおいて即興は無限の可能性を持っています。この「How」が、自分自身で自由に表現するための手段「Way」なのです。

 ただ、本当に素晴らしい表現と役作りを達成するには、多くの様々な創造的アプローチが必要です。全体としての役の解釈を非常に細かい特徴として内包していないといけませんし、使い古された陳腐な方法は捨て、自分自身のためだけに演じるという考えも捨てておかないと始まりません。そして、舞台上で、自分自身が変化する純粋な喜びを感じない俳優は、本物の、創造的な即興にはほとんど縁がないでしょう。

 また、即興というのは、俳優の能力をアップさせもします。自由な感覚を楽しめるようになると、内面でもよりリッチになるのを感じるでしょう。

3.THE ATMOSPHERE AND INDIVIDUAL FEELINGS アトモスフィアと個人の感覚

 舞台は、目に見え、耳に聞こえるもので埋め尽くされているように見えますが、強力なアトモスフィア(空気)で満たされ、観客の心を離さず、舞台が終わった後までも続くことがあります。

 アトモスフィアは、特別なものではなく、どこの場所にもあるものです。騒々しい通りの雰囲気、静かな家の中の雰囲気、図書館の雰囲気、病院の雰囲気、酒場の雰囲気……季節や時間帯によっても変化します。
 明るいイメージだったり、重かったり、ウキウキしたり、華やかだったり、奇妙だったり、様々な印象をもたらす空気です。

 ところで、舞台は、観客と共に創るといいます。ということは、観客と共に創っているアトモスフィアもあるということです。そこには、舞台美術や衣裳、音響効果なども影響しています。
 観客もろともアトモスフィアに包むということは重要な課題です。マイケル・チェーホフは、アトモスフィアを、「魂(soul)」または「心(heart)」と見なしていたほどです。

 アトモスフィアは、演技に強烈な影響を与えます。動きや、喋り、振る舞い、思考や感情にまで無意識に影響を与えるのです。そして、感染するように、強烈な影響は広がるのです。
 アトモスフィアを感じて、そこから自動的に生まれる演技の場合、毎回同じ陳腐な演技に陥るということもなくなります。取り巻く空気や空間が常に役者をサポートし、新鮮な感覚と生きた創造性を与えてくれるのです。スタニスラフスキーが述べる創造的な意志(creative will)にエネルギーを与えるわけです。

 アトモスフィアは客観的な感覚であり、個人的な主観的感覚とは区別します。通りで大惨事があったときの、客観的な感覚は、恐怖や不安だったりしますが、個人的には異なってきます。泣き叫ぶ人もいれば、進んで人命救助をしようとする人もいるでしょう。また、警官や医者など職業によっても、振る舞いや心情は異なるでしょう。

 それから、寺院のような静かで時が止まったようなアトモスフィアの空間に、賑やかな観光客が入ってきたら、がらっと雰囲気が変わるように、アトモスフィアは変化します。優勢的なアトモスフィアに支配されることになります。

ここでは、マイケル・チェーホフの著書「To the Actor(最新版)」「On the technique of Acting」の内容をFranc Chamberlain著「Michael Chekhov」の記述を踏まえてまとめていきます。

こういった意味でも、インプロヴァイゼイションの稽古は俳優にとって非常に有益なのです。
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