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ヴァイオラ・スポーリン
SPOLIN GAMES
スポーリンのシアターゲーム

1.Creating Experience 創造体験

シアターゲームをやっていくなかで、もちろんすぐに場に順応して、生き生きと動き回る人もいれば、なかなか自分の殻を壊せない人もいるでしょう。スポーリンは、教育者でもあり、全ての参加者をゲームに引き込んでいく術を身につけなければなりませんでした。従って、奥手な人をのけものにしたり、無理矢理巻き込んだりするやり方はしません。スポーリンは「みんな動けます。みんな即興ができます」といい、全ての人が持つ可能性を信じています。

Intuitive(直観)こそが即座の反応を呼び起こします。
Spontaneity(自発性)は、私たちをつくりかえる、自由の瞬間であり、創造的表現であり、発見、経験の時です。
この二つが重要なんです。

7 ASPECTS OF SPONTANEITY (自発性の7つの要素)

T.Games
  ゲームは体験する上で必要な「巻き込み」と個々の「自由」を提供します。そして、演じること、または遊ぶことを通じて、技術と技能を伸ばします。技能というのは、楽しんでいる時にまさに身につくもので、そういうときというのは真に受け入れる状態になっている時です。
  「発明の才」というのは、ゲームの際に現れます。そして、自発性に従い、ゲームは発展していくのです。
  心理的な自由というのも見られる現象です。毎日の生活や仕事で蓄積された緊張や葛藤が、ゲームの時、心理的に自由になることで和らいでいきます。
  集団で行うものですから、ルールを決め、ルールを守るということは約束されなければいけません。

U.Approval/Disapproval
  まず最初大事なことは、自由さを感じるということです。私たちは、触ること、見ること、感じること、味わうこと、臭うこと、聴くことを通して、周りの世界にリアルに触れています。そのような、環境にダイレクトに触れるということが、求めるものです。自由さは、体験を導き、「self-awareness(自己意識)」と「self-expression(自己表現)」を導きます。
  私たちは普段から、「いい」「よくない」と評価をし、受け入れたり、拒否したりしてしまいます。しかし、ゲームにおいて、参加者がおのおの「いい」「よくない」などと思っていたら、創造性は失われてしまいます。このような評価は必要ありません。またこのような態度は、エゴイスティックにさせたり、目立とうとさせたりします。
  「いい」は、ほめることとして使いましょう。ほめることは、より創造性を伸ばします。
  社会的なバックグラウンドを排除しましょう。皆社会的な地位がありますが、ゲームの世界では、皆平等です。この平等な環境がなければ、自由さと自己表現が制限されてしまいます。

V.Group Expression
  健全な良いグループ関係が必要です。もし、誰か一人、グループの調和を乱すような人がいたら、参加者は楽しくできません。グループがゲームという場でルールを同意して、ゲームの世界に入るので、エゴや競争意識は、全体の調和を妨げます。
  プロセスも大事ですが、終わったときに成果を残すことも大切です。これは、成功するために、競争相手の足を引っ張ったり、汚い手を使うということではありません。うまく出来た人、出来なかった人がいるでしょうが、なにかしらプラスになる成果を残していきたいものです。

W.Audience
  観客の役割というのも、演劇訓練のなかで無視できない要素です。ほとんどの場合は無視されていますが。「観客のことは忘れて」と、多くの演出家がいうのは、舞台でリラックスさせるためです。本当に忘れてしまってはいけません。観客は、演劇に関わるメンバーとして、最も尊ばれなければいけません。観客がいなければ演劇は成り立たないんですから。観客の役割を理解した上で、リラックスし、自由に演じるのです。そのことで第四の壁は壊れ、双方が有機的に結びついた舞台になるのです。

X.Theater Technique
  演劇の技術というものは、コミュニケーションの技術だといえます。メソッドというより、時代と場所によって変化するものなのです。儀式化するのは無意味なことです。また、都合良く引き出して使う、整理整頓された機械的な道具でもありません。
  個々の経験の中で発展していくものです。演技を経験し、様々なことに気づいていく中で技術と結びつき、自由な無限の演技を導き出すのです。

Y.Carrying the Learning Process into Daily Life
  舞台にリアリティーを創り出すために、世界を知覚できるよう常に自分がどこにいるかを知り、オープンにさせておくことです。覚えるためにテキストを家に持ち帰るというのはやめた方がいいでしょう。日常生活は、例えば空の色を見たり、自然に耳を傾けたり、土の感触を感じたり、それらの知覚体験を大事にしましょう。外の世界は演劇の材料になり、俳優としても成長させます。

Z.Physicalization
  心理的・知的アプローチとは逆に、身体的・ノンヴァーバル的アプローチが「身体化(Physicalization)」 ということです。生徒たちに、まず身体表現の自由さを積極的に教えたいものです。外界に対して自己をオープンにし、ダイレクトに感じる。役者は分析・知覚しますが、それを身体的に消化・意思疎通できなければ、無意味です。身体化することで、リアリティーは表現されるのですから。

2.Workshop Procedure ワークショップの手引き

 ワークショップを成功に導く優れたトレーナーは、意識的か無意識的かに関わらず、結果を生み出すシステムを持っています。どういった点が成功を導いたのか、どのような点に気をつけ、どのような準備をすればいいのか、これらのことに関して分析してみましょう。この章では、いかにトレーニング素材を構成し、機械的な授業を避け、未知の領域にも飛び込んでいくかについて考えてみます。

  まず、トレーナーは次の二点に目を向けていかなければなりません。
@俳優訓練に有効である素材の観察
Aいかなる素材も絶えず詳細に分析
  偏見や教科書の枠を飛び越え、「いい」「悪い」と判断する癖にも負けず、直感的に、内側に目を向けていきましょう。そうすれば、システムがシステムになる恐れもないでしょう。

T.Problem-Solving
  問題を解決するということが重要な意味を持ちます。これは生徒に対してもトレーナーに対しても同じことがいえます。 ヴァイオラは、特に生徒もトレーナーも体験することを重要視しています。関係を潤滑にさせ、問題や疑問が生じたときに、対処しやすくなります。参加者全員が体験することに対してオープンでいるべきです。
  トレーナーは、一人一人の生徒に対して的確な問題を見つけ出し、必要なことを見つけ出してあげる診断者ともなります。言葉は問題の明確化のために使い、説き伏せるためや自己顕示のための道具として使わないようにしましょう。「いい」「悪い」の判断や、非難、媚び、個人主義といった要素が、信頼や強い結びつきにとって代わるように。

U.Focus(The Point of Concentration)
  フォーカス(焦点もしくは集中の点)という言葉は、ワークショップのシステムの中でとても重要です。フォーカスは、全ての人が楽しく創造的なアドベンチャーをし、演劇を社会の中で意味のあるものにさせます。
  フォーカスというのは、ゲームの中の「ボール」のようなものです。(1)演劇の複雑なテクニックを細かく分割して、理解しやすくさせ、(2)即興の中で調和とコントロールを与え、(3)演技上の一つの問題に集中させたり、他の相手との関係を作ったりし、また(4)自発性と直観を育てます。
  分割して簡単なテーマにフォーカスを当てることで、一つ一つのディテールが理解されやすく、生徒も楽に取り組めます。徐々に発展化させていけばいいでしょう。個々の相互フォーカス、相互の関わりは、本当の関係を作り、新鮮な体験を共有します。そして、皆がゲームのなかで共に問題解決をする過程で、個々のエネルギーは放たれ、信頼が築かれ、インスピレーションや創造性が表れます。その時「スパーク」が飛び交うのです。

V.Evaluation
  評価に関してですが、指導者側は客観的な言葉を使いながら、評価を下さないという姿勢で、ダイレクトなコミュニケーションを取っていきます。生徒は「いい」「悪い」「正しい」「間違っている」という評価をほしがるものですが、そのような期待も徐々になくなっていきます。
  講師は客観的に評価してあげるべきです。個人的な偏見ではいけません。例えば、「警官はセロリなんか食べないよ」とか「それはダメだ」というのはよくない例です。講師が決めつけるのではなく、質問をしてあげたほうがいいでしょう。生徒に喋らせることで、問題に対して意識させます。
  見ている側の生徒もただ見ているだけでなく、お互いが助け合うように意見を言うことでコミュニケーションを深めます。これも個人的な意見ではなくです。客観的な観察者として、参加しているのです。
  何も決めつけず、実際に見たことのみに対して評価しましょう。観察側の生徒は、比較したり、競争したり、からかったりしないように。そのシーンをうまくできたか、できなかったかということではなく、演技の問題としてどんな点が客観的に見えたかを喋ればいいでしょう。
  時々、生徒が意見を出してこないケースがありますが、このような原因が考えられます。
@どこに注意して見ればいいかわからない。
A批判することに戸惑いがあり、仲間を攻撃したくないと思う。評価に対して誤解している。
B講師が知らず知らずに意見を遮っている。
  評価は、俳優・観客双方の問題を理解する上で、非常に大事なプロセスの一つです。

W.Side-Coaching
 サイド・コーチとは、トレーナーが演じる側と同じ立場で、一緒にやることです。同じ場を共有し、同じ目的を持ち、共に楽しみます。これにより、トレーナーと生徒との間の壁を埋め、グループとしての一体感を生み出します。
  また、トレーナーはやりながら、声を出して、軌道を与えます。短い言葉で、課題に集中させる言葉を投げかけます。例えば、「身体全体使って!」「空間を言葉で埋めて!」などというように。講師が言葉を発すると、その方を見て、聞いてしまうクセが出てしまうかもしれませんが、耳で聴いてそのまま止まらず行うように指示してください。

X.Teams and Presentation of the Problem
  全てのエクササイズは、ランダムに選ばれたグループで行います。みんなと関わることのできるようにしなければいけません。行うメンバーを変えたり、グループの人数を変えてみたり、また時にはエクササイズの場所を変えたり、様々に変化をつけて、マンネリに陥らないようにする工夫が必要です。

Y.Presenting the Problem
  指導者は、適切に、また速やかに指示を与えなければいけません。しかし、メンバーが自分から発見するものがなくなるくらい説明しすぎてはダメです。エクササイズの方法を明確にさせることと、必要であればevaluationのときに理解の補助を出してあげることに限定してください。特に、「なぜこのような課題を与えられているのか」という話題は、特に若い人たちには禁物です。エクササイズを楽しみ、体験するなかで学ぼうとするのではなく、先生が期待する狙いに応えようとする保守的な態度になってしまう可能性があります。

3.Physical Set-Ups of The Workshops ワークショップのセッティング

T.Environment in Workshop Training
  ワークショップトレーニングの「環境」というものは、稽古場の設備と雰囲気の両方を意味します。稽古場の設備としては、少なくとも調光の出来る照明が一つと、音響設備があればよいでしょう。このような設備の補助があれば、トータル的に演劇体験ができ、スキルの向上をする機会としては申し分ありません。スポーリンゲームでは、小道具や衣裳、音響効果、照明効果が必然的に求められます。大きな木箱があれば、ソファや王座など様々に応用できるので使えます。これらを用意しておくとよいでしょう。

U.Preparation for the Acting Problem
  生徒は、自ら決定し、与えられた課題の世界を準備し、構築していかなければなりません。ワークショップの初期では、指導者が集団を導いていくことが必要ですが、個人個人で意見を出し合って集団が合意していくのは難しいものです。しかし、安易に答えを示さなくて結構です。自らやってみることで、だんだんとわかっていくのです。 最初のエクササイズでできたグループの合意はその後の非常に複雑なワークショップへの活路を作ります。つまり、場所(where)、登場人物(Who)、課題(problem)がより簡単に見えてくることでしょう。
  グループの中で探っていくということは、即興というワークショップを発展させていくために必要なことです。芸術の本質からいって、シーンの発見と利用は、必ずそのグループの中から進化していくものなのです。 

V.Timing
  課題から逸れ、お互いの取り組みが出来ていない場合に起こりますが、ただアドリブをいったり、冗談をいったりしているときには「あと1分!」と声をかけます。それによって、生徒たちは一分で課題を終わらせなければいけなくなり、課題への集中が蘇り、活発化します。生徒たちが、しっかり課題に集中しているときには「あと1分!」ということはめったにいいません。
  気づかせる効果があるので、生徒に声をかけさせてみてもよいでしょう。しかし、このタイミングというものは感覚的に察知するもので、教えられてできることではありません。

W.Labels and/or Concepts
  演技のワークショップは、情報ではなく、プロセスが重要です。従って、初期の段階で演劇ならではの専門用語を使うことは避けるべきです。最初は「シェアして」「意識して」というような感覚的な言葉で指示します。専門用語は数ヶ月経ったのちにしましょう。ワークショップの構図としてベースになるのは自己発見です。ラベル化した言葉は望ましくないということを頭に入れておきましょう。

X.Avoiding the How
  前もって「どのようにやるか」と計画を立ててしまうことは、即興演技者の成長、自然な演技の振る舞いを妨げます。「今、その瞬間」に生まれ出るものを大事にしなくてはいけません。生徒は、「パフォーマンス」を見せようと張り切ってしまい、うまくやろうと準備しがちです。そこには落とし穴があるのです。逆に準備しないと演技が出来ないという癖が付いている人には、ただゲームをすればいいと気づけば大きな安心になるはずです。
  「どのようにやるか」 という前もった準備は、自発性を殺し、新しい経験を妨げ、ありふれた、使い古された演技に陥らせてしまいます。ゲームがどのような展開になるかはやってみないとわからないものなのです。前もった準備が必要なのは「場所」「人」「目的」にフォーカスを当てたストラクチャーのあるゲームのみです。

「第四の壁」というのは、舞台と客席の間の、本当ならあるはずの見えない境界のことです。
「365日24時間俳優修業」というのはぼくの持論です。台本は家に持ち帰っていいと思いますが、常にオープンに、アンテナを広げて、様々なことを体験したいものです。
RADAの元講師ピーター・オイストン氏も、よく円になってディスカッションをしましたが、彼が前もって注意したことは「There is no judgement.」ということでした。個人的な意見で「良し」「悪し」を決めつけるのは危険です。
このサイド・コーチの、投げかける言葉も紹介している、トレーナーにとって参考になる本が「Theater Games for the Classroom: A Teacher's Handbook 」です。
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